2010.06.14 Monday
私の最後の院生として,2009年3月に学位を取得した吉田仁美さんの単著『高等教育における聴覚障害者の自立支援―ユニバーサル・インクルーシブデザインの可能性―』が,6月30日付けで,ミネルヴァ書房から刊行された.
定年ぎりぎりまでの数年,ハルビンからやってきた修士課程の温海燕さんと,博士課程の吉田仁美さんの存在は,本当に私の大学教員生活の最後を飾ってくれたといっても過言ではない.もちろん,当時はこの二人さえいなかったなら,最後4年間の科学研究費がついている私のクラーラ・ツェトキーン研究を思う存分やって終れるものをと葛藤しながらの日々ではあったが,今となっては,逆にこの二人がいなかったらどんなにつまらないエンディングを迎えることになったかと思えるのである. その一人吉田さんのテーマは,聴覚障害の問題に私を無理やり向き合わせることとなった.修士課程をふくめて彼女と過ごした5年間は,毎日が新しい発見であり,部分.部分の成果を持ってマレーシアでのARAHEや,創立100年を記念するスイス,ルツェルンでのIFHEに一緒に出かけたことは本当に懐かしい.飛行機の中でも,ホテルでも彼女と議論し,成田からは大学の研究室に直行して,新しく気付かされたことを論文の内容に加筆するのを見届けた.その結果オリジナリティの塊のような論文に仕上がった. 審査委員会の構成は,高等教育政策論及び調査論の矢野眞和教授,社会福祉哲学の秋山智久教授,建築デザインの芦川智教授,外部審査員として放送大学ならびに、総合研究大学院大学のメディア文化専攻で障害者支援を専門とされる広瀬洋子教授という誇るべき陣容であった.クライマックスの公開審査会には,51名という多数の参加者が学内外から集まった. 内容については,ぜひ本書を手にとって判断していただきたい. 本書は,聴覚障害をもちながら高等教育を受けて自立した生活に挑戦する人々への支援の在り方を,先行研究の徹底的な精査の上で,実に具体的に生き生きと描いている.特に女性聴覚障害者への視点は,前例のない広さと深さと,学問的展望に満ちている.またこの研究を可能にしたのは,昭和女子大学がもっていたアカデミズム資源(大学院生活機構研究科,女性文化研究所,図書館)を汲みつくし,関連付ける彼女の能力だったと思う. |